惑星「ノスタルジア」の物語 惑星「ノスタルジア」の物語

【3】六角の書斎と古びたノート

王国歴62年実りへの感謝月17日

興奮冷めやらぬ中、私は筆をっている。
どのようにしてこの場所にたどり着いたのか、あまりにも奇想天外で、未だ理解ができないのだ。

まずは、今後のために経緯だけでも記しておこうと思う。
これは、夢なのかもしれない。そうであれば、早く覚めてほしいものだ。

その日、私はいつものように、新しく完成した万能服を町の皆に披露していた。
皆の反応は常にそっけないものだ。私の考えが正しければ、これらの品々はあの町どころか国そのものに大きな利益をもたらすに違いないのだが。

町の者の一言で、私はふいにそれを実証したくなったのだ。
折しも、私には飛宙車ひちゅうしゃの試作品もある。西の崖からならば、なだらかに崖に向かう箇所もあり、高さも加速も十分だろう。
空の彼方では息が苦しくなるというが、タンクの中は呼気精こきせいで満たしてある。
この実験が成功すれば、先だって発見された呼気精の実用化に当たっての例を報告することもできる。

私は飛宙車にまたがり、崖に向かって走らせた。
背後から町の者の声が聞こえたが、まるで私へのエールのように思えたあたり、私は頭に血が上っていたのであろう。
揚々とペダルを漕ぐ足に力を入れたのだ。

飛宙車が崖から飛び出し、ふわりと風に乗った。
その瞬間には手ごたえを感じたが、想定していたよりも落下の速度が速すぎる。

ああ、飛宙車は失敗だったか、幸いこの速度ならば、怪我で済むだろう───。
そう考えながら落下していくままの私の目に、にわかに信じられないものが映ったのだ。

私の落下していく先に、ドアが開いていた。
見間違いかもしれないが、その後の状況からかんがみるに、やはりあれはドアであったのだろう。空中にドアが浮かんでいたのだ。

いかん、ぶつかる、思わず目を閉じて身構えたが、予想していたような衝撃は感じなかった。
それどころか、かなり長い間目を閉じていたような気がしたが、落下している感覚もない。いつの間にか、うまく地面に着地したのであろうか。全く覚えがない。

恐る恐る目を開けてみると、またもや信じられない光景が広がっていた。
私は無傷の飛宙車に跨がったまま、私の屋敷の倉庫の中央に立っていたのだ。

着地の衝撃で脳震盪のうしんとうを起こし、前後不覚になったまま、屋敷に帰ってきたのだろうか?
その仮定も、後に否定されることになるのだが・・・

今日はここまでにしておこう。
また明日、彼に訊かなければならないことが沢山ある。
いや、訊かれるのは私の方かもしれないが。
好奇心旺盛なところを見ると、私と彼は気が合うのかもしれない。

 

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