ベルベット・フローライトは不思議な兎。
その体は結晶でできていて、宝石がたくさん眠る鉱山の洞窟の中に住んでいます。
彼女は洞窟から外に出ることはできません。
洞窟の中はいつも賑やかです。淡く光るコケに照らされる宝石や、透き通った湖、ここには綺麗なものがたくさん。
でも、ベルベットは洞窟の外を見たくてたまりません。
ある日、聞いたことも無いような大きな音が響いてきました。
驚いたベルベットが蝙蝠に訊ねると、洞窟の天井が崩れ、外に続く大きな穴が開いたそう。
外が見たくてたまらない不思議な洞窟兎は、穴の場所を尋ねて歩き出しました。
蝙蝠の羽ではすぐでも、ベルベットの足では時間がかかります。
川を越え、谷を越え、疲れたら湖のほとりで一休みして、長い長い時間ベルベットは歩き続けました。
いつのころからか、辺りには嗅ぎなれない匂いが混じっています。
ツンツンした鼻の乾きと、なんだかよくわからない匂いに戸惑いながら見上げると、ぽっかり空いた天井からは、満点の星空がベルベットに挨拶をしています。
しばらく星とおしゃべりを楽しんだベルベットは、ほっとしたように言いました。
「なあんだ、外って、洞窟とそんなに変わらないのね。」
ベルベットは星空とさよならして、自分の住んでいる巣に帰っていきました。
それから、ベルベットは外に行きたいと思わなくなりました。
洞窟の中はいつも賑やかです。淡く光るコケに照らされる宝石や、透き通った湖、ここには綺麗なものがたくさん。
外に出ることはできないけれど、誰よりも洞窟のことを知っています。
洞窟だってとても綺麗なことを、知っているからいいのです。